2022.02.16
ボーン・上田賞
JNN中東支局長の須賀川拓TBS記者に決定
2021年度のボーン・上田記念国際記者賞
公益財団法人新聞通信調査会は16日、2021年度のボーン・上田記念国際記者賞をJNN中東支局長の須賀川拓(すかがわ・ひろし)TBS記者に贈ると発表した。
世界は2021年も激動と苦難の年となった。コロナ禍の一段の拡大が世界経済の危機を増幅するだけでなく、感染症対策を含め多くの共通課題に協力こそ必要とされるはずが、むしろ各国関係における分断と対立が目立った。多くの国が自国中心へ傾斜し、直面する世界の多岐な諸課題の解決に向けて目標を推進する意志と指導力を発揮できる国、グループが存在しない、“Gゼロ”の状況のなかで、世界に権力、権威の空白が生まれた。
須賀川記者が意欲的に取材、報道したのは、そうした空白とも絡んで発生したアフガニスタンにおける体制と治安の激動である。とりわけ世界に衝撃を与えたのは2021年8月の首都カブールの陥落である。アフガニスタンは「帝国の墓場」とも称され、旧ソ連、大英帝国はじめ多くの大国が侵攻し敗北、撤退した歴史がある。同記者は20年にわたり駐留した米軍が撤退し、タリバンが実権を握ったアフガニスタンに2021年11月、現地入りし、カブールの厳しい現実を生々しく活写した。
記者の行ったタリバンの報道官との長時間インタビューは圧巻である。記者は冷静に厳しい質問を畳みかけてぶつけた。鋭い切り込みようであり、迫力のある論争でもあった。現地からの地上波での放送だけでなく、ウェブ配信も行い、120万回を超えるアクセスがあった。須賀川記者は、タリバンにより破壊されたバーミヤンの石仏にも足をのばし、地域住民の極度な貧困,飢餓の実態を伝えた。迫力のある映像、生の声はテレビの強みである。その強さを須賀川記者が実証して見せてもいる。今回選考にあたったボーン・上田記念国際記者賞委員会は、「テレビ各社がその強みを活かし国際報道をさらに充実させ、内向きで現状維持のムードに傾きがちな日本社会に覚醒効果を生むことを期待したい」としている。
世界はいま、歴史的な大転換期にあると思われる。1991年にソ連邦が崩壊し、長い冷戦の時代が終わった。ポスト冷戦の時代は平和と安定、そして繁栄の時代になると期待された。しかし、テロや地域紛争はむしろ多発し、感染症が深刻化するだけでなく自然災害が過酷化し、かつ頻繁になっている。米国と中国の対立、緊張は各国を巻き込みつつある。技術のパラダイムも大きく転換しており、その中で技術をめぐる覇権争い、国家間、あるいは同じ国、地域の中における格差が拡大している。様々な面における「分断」現象も広がる。貿易の面においては人道主義、人権を理由とした規制や、経済安全保障の発想による新しいタイプの保護主義が強まりつつある。ポピュリズムの風潮が高まり、民主主義の在り方も問われている。
そうした変化の時代においてジャーナリズムとジャーナリストは重い責務を背負っており、その力量を問われてもいる。本賞への積極的な挑戦を期待したい。
須賀川記者は1983年、東京都生まれの38歳。2006年にTBS入社。スポーツ局を経て2010年より報道局に配属され、社会部警視庁担当。報道番組Nスタを経て2019年から中東支局長。
ボーン・上田記念国際記者賞は、日米協力による自主的な世界ニュース通信網の確立に献身したマイルズ・W・ボーン元UP通信社(後のUPI通信社)副社長、および同氏を親交のあった上田碩三・元電通社長が1949年に東京湾の浦安沖で遭難されたのを惜しみ、また両氏の功績を顕彰して1950年に設けられた。優れた国際報道を通じて国際理解の促進に顕著な貢献のあった記者個人に贈られる。
◆記念講演会
なお、受賞者講演会は3月19日(土)午後4時から横浜の日本新聞博物館(ニュースパーク)で開催します。須賀川記者は現在ロンドン駐在でコロナ禍のため帰国がかなわず、講演会はリモート中継となります。時間、参加方法など詳しくは新聞博物館のホームページで近く明らかにする予定です。